「義歯(入れ歯)は作ったら終わり」だと思っていませんか?実は、義歯を快適に、そして長く使い続けるためには、毎日の適切なお手入れと、歯科医院での定期的なプロフェッショナルケアが欠かせません。
ご自身の歯と同じように、義歯も大切にケアすることで、お口の健康はもちろん、全身の健康を守ることにもつながります。
この記事では、義歯を長持ちさせるための「ホームケア」と「プロケア」の重要性について、詳しく解説します。
1. 毎日の「お掃除」(ホームケア)の基本
なぜ、毎日のお手入れがそれほど重要なのでしょうか。それは、怠ることで様々なリスクが生じるからです。
清掃を怠ることで起こる深刻なリスク
義歯の清掃が不十分だと、目に見えない汚れ**「デンチャープラーク」**が付着します。これは細菌の塊で、放置すると以下のようなトラブルの原因となります。
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義歯性口内炎: デンチャープラークに潜むカンジダ菌というカビの一種が繁殖し、義歯が接する粘膜に炎症を引き起こします。痛みや違和感の原因となります。
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口腔粘膜疾患の悪化: 褥瘡性潰瘍(じょくそうせいかいよう)や扁平苔癬(へんぺいたいせん)といったお口の病気を悪化させる一因となります。
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誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん): デンチャープラーク内の細菌が唾液や食べ物と一緒に気管に入り、肺で炎症を起こす病気です。特にご高齢の方にとっては、命に関わることもある深刻なリスクです。
今日からできる!正しい義歯の清掃方法
義歯のお手入れには「機械的清掃」と「化学的清掃」の2つがあり、両方を組み合わせることが理想的です。
① 機械的清掃(ブラシによる清掃)
義歯専用のブラシを使い、流水下で優しく磨きます。ヌメリや食べかすを物理的に除去するのが目的です。
【注意点】 **一般の歯磨き粉は絶対に使用しないでください。**歯磨き粉に含まれる研磨剤が義歯の表面に細かい傷をつけ、そこに細菌が繁殖しやすくなる原因となります。
② 化学的清掃(義歯洗浄剤の使用)
ブラシだけでは落としきれない細菌、特に義歯性口内炎の原因となるカンジダ菌を殺菌するために、義歯洗浄剤を使いましょう。目に見えない細菌を除去するため、機械的清掃との併用が必須とされています。
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頻度: 最低でも3日に1回は使用することが推奨されます。
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効果アップの秘訣: 超音波洗浄器と義歯洗浄剤を併用すると、さらに高い洗浄効果が期待できます。
就寝時の取り扱いは?
原則として、**夜寝る時は義歯を外しましょう。**一日中義歯を支えていた歯ぐき(粘膜)を休ませ、血行を良くするためです。
外した義歯は、乾燥による変形や破損を防ぐために、必ず水を入れた容器で保管してください。
※顎関節の状態や、残っている歯を保護するために就寝中の装着が推奨される場合もあります。必ずかかりつけの歯科医師の指示に従ってください。
2. 歯科医院での「プロケア」(定期的な管理)の重要性
「毎日きちんと手入れしているし、痛みもないから大丈夫」と思っていても、お口の中や義歯は少しずつ変化しています。その変化に気づかずに放置することが、将来の大きなトラブルにつながるのです。
なぜ定期健診が必要なのか?
長期間義歯を使用していると、以下のような変化が起こります。これらはご自身では気づきにくいのが特徴です。
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顎の骨の変化(顎堤吸収): 歯が抜けた部分の顎の骨は、少しずつ痩せていきます。これにより、作った当初はぴったりだった義歯が徐々に合わなくなってきます。
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人工歯のすり減り(咬耗): 毎日噛むことで、義歯の人工歯も少しずつすり減り、噛み合わせが変化します。
かみ合わせが変わることによっていればは外れやすくなります。
これらの変化を放置すると、義歯がガタついたり、痛みが出たりするだけでなく、フラビーガム(ぶよぶよした歯肉)や義歯性口内炎といった新たな疾患を引き起こす可能性があります。
プロケアでは何をチェックするの?
歯科医院での定期健診では、単にお掃除の状態を見るだけではありません。義歯が正常に機能しているかを、専門的な視点で総合的に評価します。
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維持: 義歯が外れようとする力に抵抗できているか(落ちやすくないか、浮き上がりやすくないか)。
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支持: 噛む力を歯ぐきや残っている歯で適切に受け止められているか(噛んだ時に特定の場所だけ痛くないか)。
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安定: 食事中や話している時に、義歯が不必要に動いたり、傾いたりしないか。
これらの要素を定期的に評価し、問題の原因を突き止めた上で、調整や**修理(裏打ち:リライン)**を行います。これにより、義歯の機能を回復させ、お口の健康を長期的に維持することができるのです。
まとめ:最高のコンディションを保つために
義歯を長持ちさせ、快適な毎日を送るための秘訣は、
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毎日の正しいホームケア(ブラシと洗浄剤の併用)
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自覚症状がなくても受けるプロケア(定期健診)
この2つの両輪が揃って初めて実現します。大切な身体の一部である義歯を正しくケアし、いつまでも「よく噛める」健康な生活を送りましょう。ぜひ、かかりつけの歯科医院で定期健診の相談をしてみてください。
【参考】ブログ記事の根拠となる論文データについて
ご提示いただいた内容の信頼性を補強する学術的なデータをいくつかご紹介します。
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義歯性口内炎とカンジダ菌の関連 義歯性口内炎の患者の多くから、カンジダ・アルビカンスという真菌(カビ)が高い頻度で検出されることが数多くの研究で報告されています。義歯の清掃不良によって形成されたデンチャープラークが、カンジダ菌の温床となることが示されています。
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論文例: G. Budtz-Jorgensen (1974), “The significance of Candida albicans in denture stomatitis.” Scandinavian Journal of Dental Research.
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概要: この研究では、義歯性口内炎の病因におけるカンジダ・アルビカンスの役割を調査し、疾患の重症度とカンジダ菌のコロニー形成との間に強い相関があることを明らかにしました。
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義歯清掃と誤嚥性肺炎の予防効果 口腔ケア、特に義歯の清掃が、高齢者の誤嚥性肺炎の発症率を低下させることが示されています。
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論文例: Yoneyama T, Yoshida M, Ohrui T, et al. (2002), “Oral care reduces pneumonia in older patients in post-acute rehabilitation.” Journal of the American Geriatrics Society. (日本の研究グループによる著名な研究です)
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概要: 介護施設入所者を対象とした研究で、歯科衛生士による専門的な口腔ケア(義歯清掃を含む)を受けたグループは、受けなかったグループに比べて、肺炎の発症率および発熱率が有意に低かったことが報告されています。これは、口腔内の細菌数を減少させることが肺炎予防につながることを示唆しています。
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義歯洗浄剤の有効性 機械的清掃(ブラッシング)だけではカンジダ菌を完全に除去することは難しく、化学的清掃(義歯洗浄剤)を併用することの有効性が研究で示されています。
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論文例: McCabe JF, Murray ID, Laurie J. (1995), “The clinical effectiveness of a new denture cleanser.” The European Journal of Prosthodontics and Restorative Dentistry.
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概要: 複数の義歯洗浄剤の効果を比較した研究では、適切な洗浄剤の使用が、デンチャープラークやカンジダ菌の数を有意に減少させることが確認されています。
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これらの学術的根拠は、ブログ記事で述べられている「ホームケア」と「プロケア」の重要性を強く裏付けています。
FROM:青木歯科医院院長 青木俊明